Copyright(C)2009
TAE KOKAWA  All rights riserved.

 ブタの体を覆う厚いラード(脂肪)は、利用価値が高く、さまざまな用途に使われてきました。揚げ油やお菓子の生地、サラミには角切りにして混ぜ込みます。

トスカーナ州北部、アプアーネ山脈沿いのコロナータ村では、ラードを丸ごと使った加工品「ラルド・ディ・コロナータ」が有名です。作り方はいたって簡単。ブタの脂身に塩、ローズマリー、ニンニクなどをすり込み、大理石の桶で寝かせ熟成させます。山脈から吹き下ろす風と大理石のおかげで、独特の風味がでてきます。半年たてば食べられますが、二年くらい古漬けの方が断然美味。コロナータは、山脈から採れる質のいい大理石で有名な村。かつてローマのサン・マルコ大聖堂にも用いられたほど、古くから栄える採石所です。石桶で熟成させるラルドは、この土地らしい加工品です。

村では、三軒の店でラルドを味見させてもらいました。重石を取り、塩をぬぐって、ナイフで薄く切ります。なめらかな舌触り…脂肪の甘さとハーブのいい香りが口いっぱいに広がります。ハーブは、ローズマリー以外にもナツメグやローリエ、オレガノをブレンドしているのもあり、店によって味が異なるのがおもしろいところ。

ラルドは極めて高カロリーですが、かつて採石所の過酷な労働を支え、厳しい冬を越すためのエネルギー源として必需品でした。それが20年ほど前から、健康志向のあおりを受けて敬遠されるようになったのです。村人たちは「伝統の味」の再起をかけ、必死にプロモーションしました。甲斐あって、現在はIGP(特定の産地、規定を満たすと保証される品質認定表示)やプレシディオ品として広く認知され、根強いファンまで生み出したのです。

現在、お店の数は13軒。(もちろん一般家庭でも作られています。)店内や村のあちこちには、仕込み用の桶が置いてあり、小さな村を一回りすれば、それらがチラリと見えて楽しいものです。大理石で寝かし、この村の風土にさらすことで生まれる産物。熟すのをじっと待つというのは、ラルドだけでなく、時に私たちの生活においても大切なことかもしれません。

写真:左ラルドを貯蔵するカンティーナ コロンナータ村 右ラルド

  

ウンブリアの食卓から 
甘くてまろやかなラードは禁断の味
>スローフード辞典>イタリアの基本食材>サルミ(ブタ加工品)>ラード
イタリアの基本食材
Dサルミ(ブタ加工) 

■サルミ概論
○まろやかラルドは禁断の味
○ブタ解体作業「ピスタ」
inserted by FC2 system